【歯科】猫の尾側口内炎①

歯科担当獣医師の森田です!

今回のブログでは猫の歯科疾患の中でも痛みを伴う口内炎について解説していきます。
この機会に愛猫のお口をぜひチェックしてみてあげてください!

口内炎を診断された猫は主に全抜歯が推奨されることもありますが、今回紹介する症例はそれ以外の方法で治療しています。

歯肉炎と口内炎の違い

猫の歯肉炎は歯石/歯垢の付着部位に起こります。歯の周囲に限局した赤みや腫れ(炎症)を引き起こし、
歯周の炎症は頬側に多いのが特徴で、口の上側(口蓋)や舌、口の後側(口腔後部)に生じることはあまりありません。
症状はほとんどなく、気が付いたら歯が埋まっている歯槽骨や歯肉が後退し歯が抜けるほど進行してしまうことがあります。

対して口内炎は歯石、歯垢の付着が少なくても起こります。
また、歯肉だけでなく口蓋や舌にまで及ぶ粘膜の炎症で、特に口の後側(口腔後部)に著しい炎症を生じます。
症状は流涎や痛みが歯肉炎よりも顕著で、口を開けた時や食べ物を噛んだ時に突然鳴き声をあげたり口を触る動作をするなど強い痛みがみられます。
時にはその痛みによりご飯が食べられなくなってしまったり、攻撃的な性格に変わってしまうことすらある恐ろしい病気です。

尾側口内炎の治療

口内炎は猫の口腔内に生じる過剰な免疫反応によって引き起こされます。
細菌性、ウイルス性、免疫性など様々な要因が複合的に絡んでおり、正確な原因はわかっていません。

抗生物質やステロイド、痛み止めなどによる内科的な治療が奏功することもありますが、徐々に効かなくなってしまうという報告があります。
また、ステロイドの使用期間が長ければ長いほど、外科的治療後の症状消失までの時間が長くなってしまうという文献もあります。

このように、内科治療は根本的な解決にならないばかりか、効かなくなる、他の治療を邪魔してしまうリスクもあるため基本的に猫の口内炎は原因である歯を抜いてしまう抜歯処置が適応になります。
抜歯によって、歯が存在することによって起こる過剰な免疫反応を抑え、口腔内の衛生環境を正常に保つ効果が期待できます。

抜歯処置には2種類あり、前歯(切歯)と牙(犬歯)を残し奥歯(臼歯)をすべて抜歯する全臼歯抜歯と、切歯や犬歯も含めた全ての歯を抜歯する全顎抜歯があります。
前臼歯抜歯は60~70%の症例で内科的治療からの離脱や減薬に成功、全顎抜歯では60~95%の症例で内科的治療からの離脱や減薬に成功したというレポートがあります。

全臼歯抜歯を選択した症例

下の写真を見てみましょう。

この猫ちゃんは口内炎を患い、流涎・口内痛・食欲低下などの症状がありました。
飼い主様と相談の上、

・犬歯、切歯に炎症所見が少ない
・若齢で麻酔リスクが低い(複数回の麻酔処置も検討可能)

という理由から、前述した治療のうち切歯と犬歯を温存する全臼歯抜歯を選択しました。
手術後2週間の写真です。

赤く腫れていた歯肉や口腔粘膜の状態も改善しています。
この子は術後数日からご飯をたくさん食べられるようになり、おとなしい子だと思っていた性格も、活発に遊ぶようになったとのことです。

症状の程度や場所によっても治療方針は異なりますが、いずれにしても歯があることで一生続く症状を和らげるには、麻酔リスクを適正評価した上で歯を抜いてあげるのが一番の近道だと言えるでしょう。

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