当院の皮膚科医が執筆した書籍「皮膚科の処方ノート2023」より、皮膚科でよくみる疾患の簡単な解説を紹介致します。
今回は当院での、猫の掻痒行動に対する診断・治療の進め方について紹介します。
痒みの診断・治療ステップ
下の図は痒みの診断・治療ステップ(犬)を院長大隅が猫用に改変して図にしたものです。
近年、猫の掻痒性皮膚疾患を含む呼称が猫アトピー症候群と改変されましたが、臨床的には以前と大きく変わるものではなく、診断ステップも犬に準じたものを用いることができます(筆者の経験)。
犬と同様に瘙痒行動が継続する場合、主な原因として、外部寄生虫症、二次感染、アレルギー性皮膚炎の3つを検討する必要がありますが、二次感染は犬ほど重要とならないことが多く感じます。
反対に、猫では上記に加えて心因性や局所の違和感が過剰自傷に繋がることが多く、見逃さないように、皮膚糸状菌症を最上段に加えています。
診断・治療のポイント
まず外部寄生虫症と皮膚糸状菌症を最初に除外することが大切です。
基本的には犬と同様に上から順に診断ステップを進めていきますが、猫では二次感染が犬ほど重大な問題となっていないため(根本的な瘙痒を制御すると治まることが多い)、まずは下図の上段青線より上の項目を簡単に除外します(多くの場合重要な原因となっていません)。
次に丁寧な問診によって
A.アレルギー性皮膚炎が疑わしい
B.心因性
C.局所の違和感
のどれかをしっかり見極めます。
飼い主様にお話をよく伺うと、それぞれきっかけや病変の分布などが異なります。
アレルギー性皮膚炎に類似する場合、犬と同様に除去食試験を実施する必要がありますが、診断に迷う場合は、試験的治療としてステロイドなどの全身薬で瘙痒行動が治まるのかを先に確認する場合もあります。
局所の違和感を除外するため、過剰自傷している部位に関与する疾患はすべて検査で除外する必要があります(膀胱炎や便秘、関節疾患の評価など)。
心因性の場合、多くはきっかけや性格が問題となっていることが多いため、とにかく徹底的に問診で見極めます。
皮膚科の範疇を超えますが、その場合、行動療法や薬物療法が適応となります。
その他
猫アトピー症候群や猫アトピー性皮膚症候群など、近年は複雑な名称に改変されてきましたが、病態が変わるわけではないため、混乱する必要はないと当院では考えています。
当院では、臨床的にいわゆる猫のアトピーとしてシンプルに考え、治療方針を立てていきます。
食物アレルギーが犬より多いという意見もありますが、当院でも同様に、猫は食事療法を頑張る価値が高いと考えています。
犬よりも、心因性の関与が重要となりますが、何か特定の検査ではなく、丁寧な問診によってクリアになることが多いため、初診時の聞き取りや繰り返しの問診が重要です。
犬と同様に1日にして診断できるものではなく、上から一つずつ検証していくことで最終診断につながることを、飼い主様と共有することが重要です。(Step-by-step diagnosis)
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