当院の皮膚科医が執筆した書籍「皮膚科の処方ノート2023」より、皮膚科でよくみる疾患の簡単な解説を紹介致します。
今回はポメラニアンやトイプードルで見られる原因不明の脱毛症、アロペシアX(脱毛症X)の診断・治療のポイントについて紹介します。
アロペシアXとは
下図にもあるように、日本では若齢のポメラニアンやトイ・プードルに好発する原因不明の脱毛症です。
肩甲部、臀部、大腿後縁から発症し、はじめに毛質が変わり、やがて薄毛から脱毛に進行し、最終的に皮膚に色素沈着をともなうことが多いとされています。頭部と四肢端は基本的に脱毛しません。
内分泌関連の脱毛症に酷似しますが、主要ホルモンに異常値を認めないため、非主要ホルモンや毛包の受容体の問題が疑われています。
伝統的に脱毛症(アロペシア)+原因不明(X)でアロペシアXと呼ばれることが多いです。
一方で、非好発犬種や非好発年齢で発症した脱毛症で、原因が特定できない場合もアロペシアXと診断されることもあり(広義のアロペシアX?)、典型例と非典型例が存在することが知られています。
診断のポイント
好発犬種が若齢で酷似した脱毛症を発症した場合、高確率でアロペシアXと診断されます(内分泌異常をともなう年齢ではないためです)。
毛検査では多くの場合、脱毛部で休止期毛が主体となっていることが確認されます。
血液検査では、内分泌疾患や他の基礎疾患を疑う所見がないか確認します。異常所見があった場合、その原因を除外する必要があります。
超音波検査では、特に副腎サイズを確認します。その他の異常所見の有無も確認します。
甲状腺や副腎のホルモン検査は、疑わしい所見があった場合に推奨されています。一方で、必ずしもすべての症例でホルモン検査が必要ではないという意見もあります。
病理組織学的検査によって、想像外の脱毛症の除外を行うことができる。また、生検による刺激部位の発毛を確認することで、マイクロニードル法の効果予想に役立つ場合があります。
治療のポイント
下図のとおり、残念ながらアロペシアXに必ず効くという治療法はありません。
主な治療の選択肢は以下のとおりです。
- 避妊・去勢手術
- マイクロニードルによる刺激法
- 内服による治療
- 積極的に治療はしない
避妊・去勢手術が未実施の場合、まずは手術が推奨されるが、一度発毛しても1年から数年で再び脱毛することが多いとされています。
マイクロニードル法は速やかに発毛する可能性がありますが、全身麻酔が必要で、皮膚の疼痛や感染が問題となる場合もあります。また、一度発毛しても再脱毛することが多いです。
内服による治療として、副作用が大きいホルモン剤の報告もあるが、比較的安全性の高い薬剤やさまざまなタイプのサプリメントを併用することで一定の効果が確認されています。
基本的に健康に害は少ない疾患であり、明確な治療法もないため、積極的に治療を行わないという考え方もあります。
予後・その他
無治療の場合、診断時より脱毛や色素沈着が徐々に進行する可能性があり、最終的にどこまで進行するかは個体差があると思われます。
一般的な治療の効果判定期間として、4カ月程度で一定の効果が示されています。
一方で、4カ月以上経ってから発毛するケースもあるため、当院ではまず4カ月、その後は1年まで2段階の効果判定期間を設定し、1年経っても発毛しない場合は治療強度を下げることが多いです。
どの方法がよく発毛するかといった情報が不足しているため、積極的に治療方法を試す場合は、できるだけ多くの種類を同時に試してもらいます。
念のため、多剤服用中は1カ月後、4カ月後くらいで血液検査や尿検査をお勧めします。
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