【皮膚】犬の膿皮症:最新ガイドラインに基づく診断と治療(獣医師向け)

はじめに

こんにちは、馬場です!😊
今回は2024年の世界獣医皮膚科会議で発表されたISCAIDの膿皮症ガイドラインに基づき、膿皮症の診断・治療のポイントを詳しく解説します。


膿皮症の診断と検査

1. 病歴聴取と身体検査

膿皮症の診断には、徹底した病歴聴取と身体検査が不可欠です。特に基礎疾患が背景にあることが多いため、アレルギー性皮膚炎や内分泌疾患の有無を考慮することが重要です。

2. 細胞診

全ての膿皮症の症例で細胞診の実施が推奨されています。特に全身性抗菌薬を使用する際には、治療前後で毎回細胞診を行うことが強く推奨されます。

  • 1000倍の顕微鏡観察により、膿皮症の典型的な細胞像(好中球やマクロファージ内の球菌)を確認。
  • 健常皮膚でも細菌が存在するため、細菌数の閾値は存在せず、炎症細胞内の細菌が診断の鍵となります。
  • また細胞外菌体およびスメア状に拡大する炎症細胞の核が認められるか、細菌過剰増殖のように炎症細胞に乏しい細菌増殖所見を認める場合も膿皮症と判断。

3. 細菌培養と抗菌薬感受性試験(AST)

全身性抗菌薬の選択において、ASTは重要な指標となります。

  • 外用抗菌薬にはASTが適用されないため、外用療法を優先する場合は不要。
  • 全身性抗菌薬を使用する際、以下のケースではASTの実施が推奨されます(過去のガイドラインから)
    • 2週間の抗菌薬治療で50%以上の症状改善が見られない
    • 治療中に新たな病変が発生
    • 6週間の治療でも細胞診で球菌が残存
    • 細胞診で桿菌が検出される
    • 多剤耐性菌の既往歴がある

表面性膿皮症の治療

表面性膿皮症は、細菌が皮膚表面で過剰増殖する病態であり、外用抗菌療法が推奨されます。

1. 診断基準

  • アレルギー性皮膚炎や摩擦による炎症が基礎疾患となる。
  • 細菌の過剰増殖が細胞診で確認されることが診断の決め手

2. 治療

  • 外用抗菌療法を第一選択とし、全身性抗菌薬の使用は避ける。
  • 推奨される外用抗菌薬
    • 2-4% クロルヘキシジン
    • 過酸化ベンゾイル
    • フシジン酸やネオマイシン(局所使用)
  • 炎症や痒みが強い場合、短期間(5-7日間)のグルココルチコイドやJAK阻害剤(オクラシチニブ)の投与が補助療法として有効

表在性膿皮症の治療

表在性膿皮症は、表皮と毛包を侵す細菌感染であり、症状に応じた治療が求められます。

1. 診断基準

  • 典型的な皮疹(膿疱、痂皮、紅斑、表皮小環)が認められる。
  • 細胞診で細菌の増殖と炎症細胞の反応を確認

2. 治療

  • 外用抗菌療法を第一選択とし、広範囲の病変にはシャンプー療法を推奨。
  • 推奨される外用療法
    • クロルヘキシジンシャンプー(週2-3回、10-15分間浸漬)
    • クロルヘキシジンワイプシート(局所)
  • 全身性抗菌薬は外用療法のみでは改善が認められなかった症例や不可能な場合に限定
  • 薬剤感受性検査は可能な限り推奨
  • 抗菌薬の投与期間は最低2週間、2週間以内に獣医による評価が推奨
  • 病変消失後は、臨床的に改善した判断され、抗菌薬を中止できる
  • 外用消毒薬による治療は、基礎疾患が完治しないか、 または再発のリスクが残る場合には長期的に継続することが可能

深在性膿皮症の治療

深在性膿皮症は、真皮や皮下組織に及ぶ感染であり、全身療法が必須となります。

1. 診断基準

  • 細胞診で好中球内に細菌が認められることが決定的証拠
  • 必要に応じて皮膚生検やFNAで診断を確定

2. 治療

  • 全身性抗菌薬を最低3週間投与し、治療開始から2週目には再評価を実施して、抗菌薬を継続するか判断
  • 臨床兆候が改善するが寛解には至らない場合、細胞診で感染の所見がまだ認められる場合には、治療 の再評価を2週間ごとに継続
  • 深在性感染症に関連した皮膚病変(排液 / 瘻管、膿、膿疱、 痂皮)が寛解したか、または病変がこれ以上進行しなくなった場合には中止可能
  • 補助的に外用抗菌療法を併用
  • 推奨される抗菌薬(ASTに基づく):

まとめ:膿皮症治療のポイント

  1. 表面性膿皮症は外用療法のみで管理し、全身抗菌薬を使用しない
  2. 表在性膿皮症では外用療法が第一選択であり、全身抗菌薬は補助的に使用
  3. 深在性膿皮症は全身抗菌薬が必須であり、最低3週間の治療が推奨される
  4. 細胞診の実施を徹底し、治療の評価を行う
  5. 耐性菌(MRSP)の対策として、外用療法を積極的に活用

おわりに

膿皮症は、適切な診断と治療により良好な予後が期待できる疾患です。特に、2024年のガイドラインでは外用療法の重要性が強調されており、全身性抗菌薬の使用を抑える方向性が示されています。飼い主様への指導や、基礎疾患の管理も含めた包括的なアプローチが、膿皮症の再発予防には欠かせません。

膿皮症に関するさらに詳しい情報については、お気軽にご相談ください!🐾

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