こんにちは、東京動物皮膚科センターの馬場です😁
今回は「マイコバクテリアによる感染症」について詳しく解説します。
マイコバクテリア感染症は、比較的稀な疾患ですが、皮膚科診療において鑑別診断に挙げるべき重要な感染症です。分類としては、大きく以下の3つに分けられます。
- 結核(Mycobacterium tuberculosis, M. bovis など)
- らい病(レプラ症候群、Mycobacterium lepraemurium など)
- 非結核性抗酸菌(M. fortuitum, M. chelonae, M. smegmatis, M. phlei, M. thermoresistible など)
疑うべき症状とリスク要因
マイコバクテリア感染症を疑うべき主な症状は以下の通りです。
- 慢性的な排膿や難治性の結節病変
- 皮膚や皮下組織の潰瘍や硬結
- 通常の抗菌薬治療に反応しない病変
- 全身状態の低下を伴う長期的な皮膚病変
また、以下の環境要因や動物の状態も感染リスクを高める要素となります。

- 土壌や水中に生息する非結核性抗酸菌:免疫力が低下した犬や猫で発症しやすい。
- 野外での生活や齧歯類との接触:特に猫のレプラ症候群(Mycobacterium lepraemurium)は齧歯類を介して感染するため、外に出る猫は注意が必要。
- 慢性疾患を持つ動物や免疫抑制状態の個体。
診断方法
マイコバクテリア感染症の診断は複数の検査を組み合わせて行います。
- 細胞診(院内で可能)
- 結節からのFNA(細針吸引生検)を行い、マクロファージ主体の炎症像を確認。
- 通常の染色では認識しづらいが、染色されない桿菌が見られることがある。
- 一部はマクロファージの細胞内に貪食されていることも。
- 特殊染色(より確実な診断のため)
- チール・ネルゼン染色またはFite-Faraco染色を使用し、菌体の可視化を行う。
- チール・ネルゼン染色またはFite-Faraco染色を使用し、菌体の可視化を行う。
- 細菌培養と薬剤感受性試験
- マイコバクテリアの培養は通常の細菌とは異なり特殊な条件下で行うため、検査会社や大学へ相談が必要。
- 培養には数週間以上かかることがあり、PCR検査の併用が有効。
- PCR検査
- 確定診断のためにはPCRによる遺伝子解析が推奨される。
- 特に非結核性抗酸菌の特定には有効。
治療方法
マイコバクテリア感染症の治療は、長期間にわたる抗菌薬投与が基本となります。
1. 抗菌薬治療(最低3ヶ月以上が必要)
- 第一選択薬:
- ドキシサイクリン
- クラリスロマイシン
- エンロフロキサシン(フルオロキノロン系抗菌薬)
- 重症例では多剤併用療法が必要
- 抗酸菌に対して有効なリファンピンやアジスロマイシンを追加することも。
- 免疫抑制の影響を受けにくい組み合わせを選択。
2. 外科的治療
- 感染部位が広範囲の場合は外科的切除を推奨
- 瘻管や慢性潰瘍病変がある場合は、デブリードマン(壊死組織除去)を行う
- 病変が進行しすぎた場合は、患部の完全切除が必要なことも
3. 免疫力の維持と再発予防
- 適切な栄養管理とサプリメントの活用(オメガ3脂肪酸、ビタミンEなど)
- 基礎疾患の管理(糖尿病、クッシング症候群など)
- 清潔な生活環境の維持(湿度の管理、寝具の消毒など)
予後と注意点
マイコバクテリア感染症は、早期発見と適切な治療が鍵となります。
- 治療期間が長くなることが多いため、飼い主の理解と協力が必要。
- 治療途中での抗菌薬の中断は耐性菌を生むリスクがあるため厳禁。
- 再発が多いため、定期的な診察と細胞診によるモニタリングが不可欠。
- 非結核性抗酸菌感染は予防が難しいため、感染リスクの高い環境での生活を避けることが望ましい。
まとめ
マイコバクテリア感染症は一般的な細菌感染症とは異なり、診断・治療ともに特別な対応が求められます。慢性的な皮膚病変や難治性の結節病変を見た際には、鑑別診断として考慮することが重要です。適切な検査と治療を行うことで、完治や病状のコントロールが可能になるため、慎重に対応しましょう。
かなり珍しい疾患ですが、外に出る猫や経過が長い子は要注意です。
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