はじめに
こんにちは、東京動物皮膚科センターの馬場です😁
今回は、犬の壊死性筋膜炎(Necrotizing Fasciitis:NF)について「Retrospective case series: Necrotising fasciitis in 23 dogs」という論文をもとに詳しく解説します。
(こちらの記事は獣医師向けになります。)
NFは皮下から筋膜、時には骨格筋にまで及ぶ、まれで急速に進行する細菌感染症です。本症は壊滅的な経過をたどることが多く、70〜80%の犬がDIC(播種性血管内凝固)や多臓器不全、ショックにより死亡すると報告されています。
原因菌
NFの原因菌として最も多く報告されるのは**β溶血性レンサ球菌(特にStreptococcus canis)**ですが、以下の細菌でも発生が報告されています。
- Staphylococcus pseudintermedius
- Staphylococcus aureus
- Pasteurella multocida
- Escherichia coli
- Serratia marcescens
NFの発症前に皮膚に微小な外傷があることが多いことが示唆されており、特に頸部や四肢に好発します。
臨床症状
NFの症状は急激に進行することが特徴です。
- 激しい痛みと発熱(発熱は特に重要な初期兆候)
- 圧痛性浮腫(pitting oedema)
- 急性の跛行(34.7%)および四肢の腫脹(26.1%)
- 発症前の微小な傷(21.7%)
- 壊死を伴う皮膚病変(潰瘍や紅斑、瘻管形成など)
- 敗血症に移行しやすい
診断が遅れると、壊死が進行しDICや多臓器不全に陥るため、早期の鑑別が非常に重要です。

診断方法
1. 細胞診
- **細針吸引生検(FNA)**による細胞診が有用。
- 好中球優位の炎症像を示し、Streptococcus sp.に一致する球菌の連鎖を確認する。
2. 細菌培養
- 好気性細菌培養を実施し、原因菌を特定する。
- 最も多く分離されるのはStreptococcus canis。
- 単菌感染が多く(63.3%)、多菌感染の報告もある(36.4%)。
3. 血液検査
- CBC(血液学検査)および血清生化学検査を実施し、炎症の評価を行う。
- 炎症マーカーの上昇、白血球増多、低アルブミン血症がしばしば認められる。
4. 画像診断
- X線検査では軟部組織の腫脹が確認されるが、骨病変は認められない。
- MRIやCTは、感染の広がりを評価するのに有用。
5. 病理組織学的検査
- NFの最終診断には皮膚生検が必要。
- 急性好中球性蜂窩織炎および筋膜炎、広範な壊死を伴う病変が特徴。
治療方法
NFは迅速な治療が必要であり、以下の3本柱でアプローチします。
1. 抗菌薬治療(全身療法)
- 第一選択薬:アンピシリン/スルバクタム
- 経験的にクリンダマイシンを追加することが推奨される(スーパー抗原のM蛋白の発現を抑えるため)。
- エンロフロキサシンの使用は推奨されない(Streptococcus sp.に対する活性が低く、病原性を増強する可能性が示唆されている)。
2. 外科的治療
- 壊死した組織を早急にデブリードマン(壊死組織の除去)することが重要。
- **陰圧創傷治療(NPWT)**を併用することで、創傷の治癒が促進される。
- 四肢病変が進行した場合、断脚が必要になることも。
3. 補助療法
- NSAIDsの使用は推奨されない(初期の痛みをマスクし、免疫細胞の活性を低下させる可能性がある)。
- 強力な鎮痛管理が必要(オピオイドを含む鎮痛薬の使用)。
- 集中的な支持療法(静脈輸液、血圧管理など)。
予後と管理
本研究における23頭の犬の転帰は以下の通りでした。
- 外科治療を受けた9頭のうち8頭が生存
- 15頭のうち5頭がDICやMODSで死亡、11頭は重症化し安楽死
- 生存率は適切な外科処置と早期治療の有無によって大きく左右される
早期診断が生存率向上の鍵となるため、NFを疑う症例では即座に細胞診と培養検査を行うべきです。
結論
- 壊死性筋膜炎はまれだが、壊滅的な疾患であり、迅速な対応が求められる。
- 四肢の急激な腫脹と疼痛を伴う発熱がある犬では、NFを鑑別診断に入れる。
- 経験的にはアンピシリン/スルバクタムやクリンダマイシンの投与が推奨される。
- エンロフロキサシンやNSAIDsの使用は避けるべきである。
- 外科的デブリードマンと陰圧創傷治療が有効である。
NFは発症から進行までのスピードが速く、診断の遅れが致命的となる疾患です。獣医師が適切な治療指針を持ち、迅速に対処することが求められます。
かなり稀な疾患ですが、皮膚科の救急疾患であることには間違いなく、知っていると知らないとでは初手が変わります。そしてその初手が命を救う鍵となります!
動物病院さんからのご紹介も受け付けております。お気軽にご相談ください!\
📞 東京動物皮膚科センターの予約はこちら ⬇
03-3403-8012